炭疽(anthrax)ってどんな病気?
炭疽は炭疽菌によっておこる疾病であり、全世界に存在する人獣共通感染症です。国内の動物の発生は、ほとんどがウシで、感染の機会は農業従事者、獣医師、動物産品処理従事者などにみられます。
我が国における炭疽の発生状況は、過去には昭和40年に岩手県において密殺解体した肉を食べたことによって集団発生した事例があります。しかしそれ以外では昭和48年まで毎年1〜2人みられましたが、それ以降平成6年までは1〜2人の散発例が数回みられただけで、平成7年以降は現在まで患者発生はみられておりません。
1.臨床症状
ヒト炭疽には感染経路によって皮膚炭疽、肺炭疽、腸炭疽、髄膜炭疽の4つの主要な病型があります。肺炭疽はヒトからヒトへの感染はないとされています(注:現時点で証明されていない)が、皮膚炭疽はその病変部位から感染する危険性があるともいわれています。
1)皮膚炭疽
全体の95〜98%を占める。潜伏期は1〜7日である。初期病変はニキビや虫さされ様で、かゆみを伴うことがある。初期病変周囲には水疱が形成され、次第に典型的な黒色の痂皮となる。およそ80%の患者では痂皮の形成後7〜10日で治癒するが、20%では感染はリンパ節および血液へと進展し(菌血症)、その後、敗血症となり致死的である。
2)肺炭疽
上部気道の感染で始まる初期段階はインフルエンザ等のウイルス性呼吸器感染や軽度の気管支肺炎に酷似しており、軽度の発熱、倦怠感、筋肉痛等を訴える。数日して第2の段階へ移行すると突然呼吸困難、発汗およびチアノーゼを呈する。この段階に達すると通常24時間以内に死亡する。
3)腸炭疽
炭疽菌に汚染された食品や飲み物を摂取した後2〜5日で発症する。初期症状として悪心、嘔吐、食欲不振、発熱があり、次いで腹痛、腹水貯留、吐血をあらわし、血液性の下痢を呈する場合もある。敗血症へと移行すると、ショック、チアノーゼを呈し、死亡する。腸炭疽の死亡率は25〜50%とされる。
4)髄膜炭疽
皮膚炭疽の約5%、肺炭疽の2/3に引き続いて起こるが、稀に初感染の髄膜炭疽もある。髄膜炭疽は治療を行っても、発症後2〜4日で100%が死亡する。
2.病原体
炭疽の原因菌は炭疽菌(Bacillus anthracis)であり、芽胞を形成する好気性グラム陽性大桿菌で、溶血性や運動性は示しません。炭疽菌は典型的な土壌菌で、干ばつ、洪水、長雨などの異常気象のあと、土中の芽胞が土表面に現れ、外気温に暖められた沈泥中で増殖します。炭疽菌はいったん芽胞をつくると、熱、化学物質、pH、紫外線などに抵抗性があり、長い間(少なくとも数十年)栄養素がない状態で土壌や動物製品などに存在することが可能です。
3.治療と予防
ワクチンはわが国では販売されておりません。治療にはペニシリン系の抗生物質が有効とされていますが、耐性菌の存在も報告されております。アミノグリコシド、マイクロライド、キノロン、テトラサイクリン系の抗生物質には一般的に感受性であるので、代用できます。クロラムフェニコールも有効です。菌血症の場合には、抗生物質による治療が有効でない場合が多くみられます。
4.世界の状況
アジア、南北アメリカ、ヨーロッパ、アフリカと全世界で今でも地方病として発生がみられています。アメリカやカナダではバッファローでの発生がみられています。トルコ‐パキスタン間は炭疽ベルトと言われ、年間数百人の患者を数えています。西アフリカでは象を中心とした野生の草食獣に日常的にみられ、ザンビアの全土で炭疽菌が検出されています。ハイチで年間数百人の患者を出しています。
5.関連情報へのリンク
・厚生労働省ホームページ
・日本医師会(米国の同時多発テロ関係ホームページ)
引用(参考)文献
・感染症の話(IDWR):国立感染症研究所感染症情報センター
・医師からの都道府県知事等への届出のための基準
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