2008年三重県感染症発生動向調査情報


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1 全数把握対象感染症

1) 感染症法に基づく全数把握

2008年(2007年12月31日〜2008年12月28日)における全ての医療機関から届出が必要な感染症の患者数は、2類感染症の急性灰白髄炎が1人、結核が411人、3類感染症の腸管出血性大腸菌感染症が53人(O157:51人、O26:1人、O103:1人)、腸チフスが1人、4類感染症のA型肝炎が3人、オウム病が1人、つつが虫病が5人、デング熱が1人、日本紅斑熱が32人、レジオネラ症が21人、5類感染症のアメーバ赤痢が8人、ウイルス性肝炎が4人(B型)、クロイツフェルト・ヤコブ病が3人、劇症型溶血性レンサ球菌感染症が3人、後天性免疫不全症候群が13人(感染者8人、患者5人)、梅毒が10人、風しんが5人、麻しんが43人であった。なお、日本紅斑熱は、いずれも伊勢保健所管内での発生であった。麻しんは、5月から6月にかけて四日市大学で集団発生がみられるなど、学生での発生が目立った。

2) 三重県独自の取り組みによる全数把握

2007年4月から開始した「三重県性感染症4疾患患者全数把握調査」による2008年4月〜2009年3月の患者報告数は、88医療機関から2,830人であった。疾患別で最も多かったのは性器クラミジア感染症(男422人、女1,214人)、次いで性器ヘルペス感染症(男69人、女397人)、淋菌感染症(男305人、女65人)、尖圭コンジローマ(男131人、女125人)の順であった。また、混合感染では、性器クラミジア感染症と淋菌感染症の混合(男63人、女27人)が最も多かった。保健所管内別では、津(620人)が最も多く、次いで桑名(473人)、伊賀(473人)、鈴鹿(410人)、四日市市(402人)、松阪(272人)、伊勢(166人)、尾鷲(10人)、熊野(4人)の順であった。年齢階級別では、男は25〜29歳(212人)が最も多く、女は20〜24歳(477人)が最も多かった。

2 定点把握対象感染症

5類感染症(週届出対象)のインフルエンザ定点(73機関、4月から72機関)、小児科定点(45機関)、眼科定点(12機関)及び基幹定点(9機関)からの患者届出数の合計は53,666人で、2007年(60,996人)に比べ12.0%減少した。疾患別にみると、感染性胃腸炎(定点当たり年間患者届出数466.2人)、インフルエンザ(同185.3人)、手足口病(同96.6人)、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(同87.4人)、水痘(同76.1人)、ヘルパンギーナ(同51.2人)の順に多く、2007年に比べ増加が目立ったのは、手足口病、咽頭結膜熱、百日咳、細菌性髄膜炎(基幹定点)などであった。
5類感染症(月届出対象)のSTD定点からの患者届出数は男性198人、女性200人で、2007年(男性261人、女性197人)に比べ男性が24.1%減少、女性が1.5%増加した。疾患別にみると、男女とも性器クラミジア感染症(定点当たり年間患者届出数男:6.5人、女:9.9人)が多かった。また、基幹定点からの患者届出数は422人で、このうち96.4%をメチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(定点当たり年間患者届出数60.8人)が占めた。
2008年に特徴的な発生動向を示した主な感染症は以下のとおりである。

(1) インフルエンザ

 定点当たり年間患者届出数は185.3人で、前年比0.61倍に減少した。2007/08年はAH1亜型のほぼ単独流行で、尾鷲、鈴鹿、桑名保健所管内で多かった。2007年第50週に定点・週当たり患者届出数が流行開始の目安とされる1人を超え、2008年第4週にピーク(同42.8人)に達した。第13週には同1人を下回った。また、第12〜13週にはAH3亜型の分離もあり、その後5月から7月にかけては桑名保健所管内を中心とするB型の流行が目立った。年齢別では、7歳を中心に6〜9歳の学童の占める割合が高かった。また、2008/09年の初発は2008年第40週で、12月から桑名、伊勢管内を中心に増加傾向がみられ、流行開始の目安とされる定点・週当たり患者届出数1人を超えたのは第51週(同1.7人)と過去5シーズンでは、昨シーズンに次いで早い開始となった。

(2) A群溶血性レンサ球菌咽頭炎

 定点当たり年間患者届出数は87.4人で、前年比0.94倍と微減したが、上半期は前年に引き続き高い水準で推移し、流行のピークは第23週の定点・週当たり患者届出数3.5人と前年のピーク値(第22週:同4.1人)より少なかった。秋季以降は例年同様に再び増加し、第51週の同2.3人をピークとする流行がみられた。年齢別では4〜5歳が多く、保健所管内別では、尾鷲、鈴鹿、伊賀が多かった。

(3) 感染性胃腸炎

 定点当たり年間患者届出数は466.2人で、前年比1.10倍と増加した。流行の開始時期は例年並みで、ピークは第51週の定点・週当たり患者届出数25.4人と前年(第51週:同29.1人)に比べ低かった。年齢別では1歳が最も多く、保健所管内別では尾鷲、伊勢、鈴鹿が多かった。

(4) 水 痘

 定点当たり年間患者届出数は76.1人で前年比0.89倍に減少した。前年に比べ、2〜6月は低い水準で推移したが、7〜12月にかけては同程度で、流行のピークは春の流行が小さかったため第52週の定点・週当たり患者届出数3.3人であった。年齢別では3歳を中心に、1〜4歳の幼児に多かった。保健所管内別では伊賀、津、鈴鹿、桑名で多く、他管内では少なかった。

(5) 手足口病

 定点当たり年間患者届出数は96.6人で前年比3.51倍に増加した。流行のピークは第29週の定点・週当たり患者届出数11.1人と現行の患者発生動向調査が開始された1999 年以降では最大の流行規模となった。年齢別では2歳を中心に1〜5歳の幼児に多かった。保健所管内別では伊賀、鈴鹿、桑名、津で多く、前年に流行のみられた尾鷲管内で少なかった。

(6) 伝染性紅斑

 定点当たり年間患者届出数は4.51人で、前年比0.16倍に減少した。流行のピークは第2週で、定点・週当たり患者届出数は0.6人であった。年齢別では5〜8歳が多かった。保健所管内別では、伊勢で多かったが前年に大きな流行がみられたため、1999年以降では最も低い水準で推移した。これまで1991〜1992年、1996〜1997年、2001〜2002年、2006〜2007年とそれぞれ2年に亘る流行が5年周期でみられていることから、次の流行は2011〜2012年になることが見込まれる。

(7) ヘルパンギーナ

 定点当たり年間患者届出数は51.2人で、前年比0.75倍に減少した。流行のピークは第29週(定点・週当たり患者届出数6.2人)で、中程度の流行となった。年齢別では1〜2歳が多く、保健所管内別では鈴鹿、尾鷲で多かった。

(8) 流行性耳下腺炎

 定点当たり年間患者届出数は13.5人で、前年比0.35倍に減少した。流行のピークは第28週の定点・週当たり患者届出数0.9人で、前年の秋以降では最も低い水準で推移した。年齢別では5〜6歳が多く、保健所管内別では尾鷲、熊野で多かった。前年に発生の少なかった尾鷲管内で夏季に流行がみられ、10月以降は、熊野管内で流行していた。

(9) RSウイルス感染症

 定点当たり年間患者届出数は20.0人で、前年比0.82倍に減少した。調査が開始された2003年以降では、最も早く流行がみられ、流行のピークは第47週(同1.7人)であった。年齢別では1歳、6〜11か月齢、0〜5か月齢の順に多く、保健所管内別では鈴鹿、津で多かった。

(10) マイコプラズマ肺炎

 基幹定点当たり年間患者届出数は9.7人で前年比0.57倍に減少した。小児科定点当たり年間患者報告数は6.7人で前年比0.84倍に減少した。ピークは、基幹定点では第36週の定点・週当たり患者届出数1.0人、小児科定点では第11週の同0.3人であった。年齢別では、基幹定点では1〜4歳が多く、小児科定点では4歳〜6歳が多かった。保健所管内別では、基幹定点では伊勢、伊賀で多く、小児科定点では四日市市で多かった。

(11) 性感染症

 男性では性器クラミジア感染症が同6.5人(前年比1.11倍)で最も多く、淋菌感染症が定点当たり年間患者届出数3.9人(前年比0.55倍)と続いた。淋菌感染症は2003年以降、漸減傾向を示している。両疾患とも、年齢階級別では25〜29歳が多く、保健所管内別では桑名で多かった。一方、尖圭コンジローマは定点当たり年間患者届出数1.6人(前年比0.80倍)で、2003年以降、漸増傾向を示していたが減少した。年齢階級別では45〜49歳が多く、保健所管内別では津、桑名で多かった。
 女性では性器クラミジア感染症が定点当たり年間患者届出数9.9人(前年比1.01倍)で最も多く、性器ヘルペスウイルス感染症が同2.3人(前年比1.00倍)と続いた。性器クラミジア感染症は、前年は減少したが、再度増加した。年齢階級別では20〜24歳、25〜29歳の順に多く、保健所管内別では鈴鹿での増加が目立った。他3疾患はいずれも年齢階級、保健所管内別とも目立った変化はみられなかった。

(12) 薬剤耐性菌感染症

 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症は定点当たり年間患者届出数45.2人(前年比0.74倍)で、保健所管内別では津、松阪、鈴鹿の順に多く、年齢階級別では70歳以上が62.7%を占め、年齢が高くなるにつれて増加する傾向がみられた。ペニシリン耐性肺炎球菌感染症は同1.4人(前年比0.87倍)で、伊賀、津、鈴鹿管内での散発がみられた。薬剤耐性緑膿菌感染症は同0.2人(前年比0.5倍)で、鈴鹿、津管内で各1例のみであった。