2010年三重県感染症発生動向調査情報


概要版pdfファイル

1 全数把握対象感染症

 2010年(2010年1月4日〜2011年1月2日)における全ての医療機関から届出が必要な感染症の患者数は、2類感染症の結核が342人、3類感染症の細菌性赤痢3人、腸管出血性大腸菌感染症が350人(O157:332人、O26:12人、O121:2人、O91:2人、O111:1人、O157/O25混合:1人)、4類感染症のE型肝炎が2人、A型肝炎が4人、つつが虫病が5人、デング熱が1人、日本紅斑熱が26人、日本脳炎が1人、ライム病が1人、レジオネラ症が6人、5類感染症のアメーバ赤痢が10人、ウイルス性肝炎(B型)2人、急性脳炎が3人(新型インフルエンザウイルス1人、病原体不明2人)、クリプトスポリジウム症が2人、クロイツフェルト・ヤコブ病が3人、劇症型溶血性レンサ球菌感染症3人、後天性免疫不全症候群が9人(感染者6人、患者3人)、ジアルジア症1人、梅毒が3人、破傷風が2人、風しんが1人、麻しんが8人であった。なお、日本紅斑熱は、いずれも伊勢保健所管内での発生であった。クリプトスポリジウム症は、三重県では調査開始以来初の報告である。

2 定点把握対象感染症

 5類感染症(週届出対象)のインフルエンザ定点(72機関)、小児科定点(45機関)、眼科定点(12機関)及び基幹定点(9機関)からの患者届出数の合計は44,829人で、2009年(75,273人)に比べ40.4%減少した。疾患別にみると、感染性胃腸炎(定点当たり年間患者届出数532.8人)、水痘(同75.9人)、インフルエンザ(同57.7人)、手足口病(同53.9人)、ヘルパンギーナ(同50.1人)の順に多く、2009年に比べ増加が目立ったのは、手足口病、伝染性紅斑であった。【表3〜4】
5類感染症(月届出対象)のSTD定点からの患者届出数は男性171人、女性166人で、2009年(男性202人、女性162人)に比べ男性が15.3%減少、女性が2.5%増加した。疾患別にみると、男女とも性器クラミジア感染症(定点当たり年間患者届出数男:6.0人、女:8.2人)が多かった。また、基幹定点からの患者届出数は453人で、このうち95.6%をメチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(定点当たり年間患者届出数48.1人)が占めた。

2010年に特徴的な発生動向を示した主な感染症は以下のとおりである。

(1) インフルエンザ
 定点当たり年間患者届出数は57.7人で、前年比0.09倍に減少した。2009/10シーズンは、2010年初めまで新型インフルエンザ(AH1pdm)の単独流行で2009年第44週にピーク(同46.1人)となり減少に転じたため、2010年におけるインフルエンザ患者届出数は大幅に減少した。また、2月下旬から5月にかけてはB型の分離報告が多かった。20010/11シーズンは9月からAH3亜型の分離報告が続いたが、11月にはAH1pdmが報告され、流行開始の目安とされる定点・週当たり患者届出数が1人を超えたのは2011年第1週(同2.9人)でAH1pdmが主流となった。

(2) A群溶血性レンサ球菌咽頭炎
 定点当たり年間患者届出数は42.2人で、前年比0.77倍に減少した。年初から低い水準で推移し、流行のピークは第51週の定点・週当たり患者届出数1.8人と前年のピーク値(第10週:同2.7人)より少なかった。年を通して報告数が少なく秋季以降になり例年程度の報告数となった。年齢別では4〜6歳が多く、保健所管内別では、尾鷲、鈴鹿が多かった。

(3) 感染性胃腸炎
 定点当たり年間患者届出数は532.8人で、前年比1.42倍に増加した。流行の開始時期は例年並みで、2010/11年シーズンのピークは第50週の定点・週当たり患者届出数29.6人と前シーズン(第1週:同15.4人)に比べ高かった。年齢別では1歳が最も多く、さらに2〜4歳の幼児に多かった。保健所管内別では尾鷲、鈴鹿、伊勢が多かった。

(4) 水 痘
 定点当たり年間患者届出数は75.9人で前年比1.05倍とほぼ同数であった。例年に比べ、1〜3月は低い水準で推移したが、4月以降は同程度の水準で推移し、流行のピークは第21週の定点・週当たり患者届出数3.8人であった。年齢別では3歳を中心に、1〜5歳の幼児に多かった。保健所管内別では津、伊勢、伊賀、鈴鹿で多かった。

(5) 手足口病
 定点当たり年間患者届出数は53.9人で前年比6.23倍に増加した。流行のピークは第25週の定点・週当たり患者届出数4.9人となった。4〜6月にかけては、1999年以降最も多い水準で推移したが、ピーク時の患者数は例年並みであった。年齢別では1歳を中心に1〜4歳の幼児に多かった。保健所管内別では尾鷲で多かった。

(6) 伝染性紅斑
 定点当たり年間患者届出数は37.1人で、前年比8.06倍に増加した。1999年以降最も多い水準で推移し、流行のピークは第26週で、定点・週当たり患者届出数は1.8人であった。年齢別では5歳を中心に3〜6歳の幼児に多かった。これまで1991〜1992年、1996〜1997年、2001〜2002年、2006〜2007年とそれぞれ2年に亘る流行が5年周期でみられていることから、次の流行は2011〜2012年になることが見込まれていたが、2010年は大きな流行となった。保健所管内別では、伊勢、尾鷲、松阪、津で多く、尾鷲は10月以降多くなった。

(7) ヘルパンギーナ
 定点当たり年間患者届出数は50.1人で、前年比1.02倍とほぼ同数であった。流行のピークは第27週の定点・週当たり患者届出数6.0人で、中程度の流行となった。年齢別では1〜2歳が多く、保健所管内別では桑名で多かった。

(8) 流行性耳下腺炎
 定点当たり年間患者届出数は21.6人で、前年比1.22倍に増加した。流行のピークは第37週の定点・週当たり患者届出数0.8人で、前年に続き低い水準で推移した。年齢別では4〜5歳が多く、保健所管内別では伊賀で多かった。

(9) RSウイルス感染症
 定点当たり年間患者届出数は31.1人で、前年比2.98倍に増加した。流行のピークは第5週(同2.1人)であった。年齢別では1歳、6〜11か月齢の順に多く、保健所管内別では鈴鹿、津で多かった。

(10) マイコプラズマ肺炎
 基幹定点当たり年間患者届出数は7.4人で前年比1.56倍に増加した。小児科定点当たり年間患者報告数は7.2人で前年比1.52倍に増加した。ピークは、基幹定点では第52週の定点・週当たり患者届出数0.6人、小児科定点では第46週の同0.4人であった。年齢別では、基幹定点では1〜9歳が多く、小児科定点では3〜5歳が多かった。保健所管内別では、基幹定点では伊勢、伊賀で多く、小児科定点では四日市市、鈴鹿、津で多かった。

(11) 性感染症
 男性では性器クラミジア感染症が定点当たり年間患者届出数6.0人(前年比1.03倍)で最も多く、淋菌感染症が同3.5人(前年比0.71倍)と続いた。淋菌感染症は2003年以降、漸減傾向を示している。年齢階級別では性器クラミジア感染症は30〜34歳40〜44歳、淋菌感染症は20〜24歳、25〜29歳、35〜39歳が多く、保健所管内別では両疾患とも桑名で多かった。一方、尖圭コンジローマは定点当たり年間患者届出数1.3人(前年比0.80倍)で、2003年以降、漸増傾向を示している。年齢階級別では25〜29歳、45〜49歳が多く、保健所管内別では津、四日市市、伊賀で多かった。
 女性では性器クラミジア感染症が定点当たり年間患者届出数8.2人(前年比1.15倍)で最も多く、性器ヘルペスウイルス感染症が同1.9人(前年比0.76倍)と続いた。性器クラミジア感染症は、年齢階級別では20〜24歳、25〜29歳の順に多く、保健所管内別では鈴鹿での増加が目立った。他3疾患はいずれも年齢階級、保健所管内別とも目立った変化はみられなかった。

(12) 薬剤耐性菌感染症
 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症は定点当たり年間患者届出数48.1人(前年比1.01倍)で、保健所管内別では津、松阪、鈴鹿の順に多く、年齢階級別では70歳以上が65.4%を占め、年齢が高くなるにつれて増加する傾向がみられた。ペニシリン耐性肺炎球菌感染症は定点当たり年間患者届出数1.4人(前年比2.17倍)で、保健所管内別では鈴鹿、尾鷲で多かった。薬剤耐性緑膿菌感染症は同0.8人(前年比2.33倍)で、保健所管内別では熊野で多かった。

3 結核
(1) 患者の推移等
 結核の状況は、医療や公衆衛生の向上に伴って劇的に改善され、結核対策の公衆衛生施策に占める重要性は以前より小さくなったと言われている。しかしながら、三重県、全国ともに昭和50年頃から、それまで順調に推移してきた改善スピードに陰りが見え始め、平成に入ってからは、より鈍化しているのが現状である。近年の改善傾向の鈍化・停滞の背景には、急速な高齢化の進展に伴う結核発病高危険者の増加、治療完了率が低く罹患率の高い地域の存在、多剤耐性菌の出現等、様々な要因により発生してきた新たな問題があり、それらへの対策が急務となっていた。
このため、結核予防法が近年の結核対策を取り巻く状況の変化を踏まえて、50余年ぶりに大規模な見直しが行われ、平成16年6月23日に法律の一部が大幅に改正(平成17年4月1日施行)されたが、平成18年12月8日に特定の感染症の病名を冠した法律については、差別・偏見の温床となるなど、人権への配慮の観点から問題が少なくなく、また、感染症対策の一般法である「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法という)」の理念、諸規定を結核対策にも該当、適用すべきであるといった観点から結核予防法を廃止し、結核を感染症法における二類感染症に位置づけるとして感染症法の一部が大幅に改正され、平成19年4月1日から新たな結核対策が行われている。しかし、現行感染症法の全数届出感染症には結核のように全国で年間2万人を超えて発生報告があるものは無く(全数届出感染症で2010年、結核の次に報告が多かった感染症は3類の腸管出血性大腸菌感染症で4,110人、次いで5類の後天性免疫不全症候群で1,513人であった。)、結核は未だに我が国最大の感染症であり、結核制圧に向けてより一層諸対策に取り組む必要がある。

(2) 2010年新登録患者数
 2010年の新登録患者数は294人(2011年2月18日現在。以下同じ。)で、2009年(312人:確定値)に比べ18人減少した。これを保健所管内別にみると、増加したのは伊勢が最も多く12人、次いで伊賀8人、鈴鹿6人、松阪1人、減少したのは桑名17人、津15人、熊野6人、四日市市4人、尾鷲3人であった。また、年齢階級別にみると、増加したのは、70歳以上13人、減少したのは20〜29歳、40〜49歳各7人、30〜39歳5人、50〜59歳4人、60〜69歳3人であり、20歳未満では新たな登録患者はみられなかった。