2011年三重県感染症発生動向調査情報


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1 全数把握対象感染症

 2011年(2011年1月3日〜2012年1月1日)における全ての医療機関から届出が必要な感染症の患者数は、2類感染症の結核が368人、3類感染症のコレラが1人、細菌性赤痢が4人、腸管出血性大腸菌感染症が50人(O157:46人、O26:1人、O145:1人、O146:1人、HUS診断例1人)、パラチフスが2人、4類感染症のE型肝炎が3人、A型肝炎が4人、つつが虫病が3人、デング熱が1人、日本紅斑熱が37人、レジオネラ症が7人、レプトスピラ症が1名、5類感染症のアメーバ赤痢が13人、ウイルス性肝炎(B型)7人、急性脳炎が5人(インフルエンザウイルスAH3亜型、AH1 pdm09各1人、病原体不明3人)、クリプトスポリジウム症が3人、クロイツフェルト・ヤコブ病が3人、劇症型溶血性レンサ球菌感染症3人、後天性免疫不全症候群が12人(感染者7人、患者5人)、ジアルジア症が1人、髄膜炎菌性髄膜炎が1名、梅毒が6人、破傷風が1人、バンコマイシン耐性腸球菌感染症が1名、風しんが7人、麻しんが2人であった。なお、髄膜炎菌性髄膜炎は、三重県では2000年以降、初めての報告である。

2 定点把握対象感染症

 5類感染症(週届出対象)のインフルエンザ定点(72機関)、小児科定点(45機関)、眼科定点(12機関)及び基幹定点(9機関)からの患者届出数の合計は63,596人で、2010年(44,829人)に比べ42%増加した。疾患別で最も多かったのは感染性胃腸炎(定点当たり年間患者届出数360.3人)で、次いでインフルエンザ(同358.9人)、手足口病(同117.6人)、水痘(同77.62人)の順に多く、2010年に比べ増加が目立ったのは、インフルエンザ、マイコプラズマ肺炎(小児科)、咽頭結膜熱、手足口病であった。
【表3〜4】
 5類感染症(月届出対象)のSTD定点からの患者届出数は男性190人、女性149人で、2010年(男性171人、女性166人)に比べ男性が10%増加、女性が11%減少した。疾患別にみると、男女とも性器クラミジア感染症(定点当たり年間患者届出数男:5.3人、女:6.5人)が多かった。また、基幹定点からの患者届出数は537人で、このうち93.9%をメチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(定点当たり年間患者届出数56.0人)が占めた。
2011年に特徴的な発生動向を示した主な感染症は以下のとおりである。

(1) インフルエンザ
 定点当たり年間患者届出数は358.9人で、前年比6.2倍に増加した。2010/11シーズンは、2010年9月からAH3亜型の分離報告が続いたが、10月にはB型、11月にはAH1pdmが報告され流行の主流となった。流行のピークは第5週と第10週に見られた。2011/12シーズンは、10月からAH3亜型の分離報告が続いたが、1月にはB型が報告され、流行開始の目安とされる定点・週当たり患者届出数が1人を超えたのは2011年第47週(同1.1人)と2010/11シーズンより立ち上がりが1ヶ月程早く、さらに2012年に入ってから急速に増加した。流行の主流はAH3亜型であった。【図1】

(2) 咽頭結膜熱
 定点当たり年間患者届出数は30.1人で、前年比2.67倍に増加した。年初からやや高い水準で推移し、流行のピークは第25週の定点・週当たり患者届出数1.5人と2006年に継ぐ大きな流行となった。年齢別では1〜5歳の幼児に多く、保健所管内別では、四日市市、津が多かった。【図2】

(3) A群溶血性レンサ球菌咽頭炎
 定点当たり年間患者届出数は61.7人で、前年比1.46倍に増加した。年初からやや高い水準で推移し、流行のピークは第16週の定点・週当たり患者届出数2.5人と前年のピーク値(第23週:同1.7人)に比べ高く、秋季以降になり例年程度の報告数となった。年齢別では4〜6歳が多く、保健所管内別では、鈴鹿、尾鷲が多かった。【図3】

(4)感染性胃腸炎
 定点当たり年間患者届出数は360.3人で、前年比0.68倍に減少した。流行の開始時期は例年より遅く、2011/12シーズンのピークは第3週の定点・週当たり患者届出数15.1人と前シーズン(第50週:同29.6人)に比べ約半数であった。年齢別では1歳が最も多く、さらに2〜4歳の幼児に多かった。保健所管内別では尾鷲が多かった。【図4】
(5) 水 痘
 定点当たり年間患者届出数は77.6人で前年比1.02倍とほぼ同数であった。例年に比べ、3〜5月は低い水準で推移したが、6月以降は同程度の水準で推移し、秋以降に増加が見られた。流行のピークは第51週の定点・週当たり患者届出数3.4人であった。年齢別では3歳を中心に、1〜5歳の幼児に多かった。保健所管内別では津、伊勢、伊賀で多かった。【図5】

(6) 手足口病
 定点当たり年間患者届出数は117.6人で前年比2.18倍に増加した。1999年以降最大の流行規模となり、流行のピークは第28週の定点・週当たり患者届出数12.7人となった。年齢別では1歳を中心に1〜4歳の幼児に多かった。保健所管内別では尾鷲でやや多かった。【図6】

(7) 伝染性紅斑
 定点当たり年間患者届出数は22.7人で、前年比0.61倍に減少した。2010年に引き続き高い水準で推移したが、夏以降減少した。流行のピークは第25週で、定点・週当たり患者届出数は1.3人であった。年齢別では5歳を中心に3〜6歳の幼児に多かった。保健所管内別では、鈴鹿、伊賀、尾鷲で多かった。【図7】

(8) ヘルパンギーナ
 定点当たり年間患者届出数は43.4人で、前年比0.87倍に減少した。流行のピークは第27週の定点・週当たり患者届出数6.0人で、中程度の流行となった。年齢別では1〜2歳が多く、保健所管内別では桑名で多かった。【図8】

(9) 流行性耳下腺炎
 定点当たり年間患者届出数は33.6人で、前年比1.56倍に増加した。流行のピークは第43週の定点・週当たり患者届出数1.2人で、年初は前年に続き低い水準で推移したが、9月以降増加がみられた。年齢別では4〜5歳が多く、保健所管内別では津、伊勢で多かった。【図9】

(10) RSウイルス感染症
 定点当たり年間患者届出数は23.4人で、前年比0.75倍に減少した。2010/11シーズンのピークは第2週(同1.1人)で2009/2010シーズンに比べ1月~3月の報告数が少なかった。2011/12シーズンは例年に比べ秋期の届出数がやや多く、第50週(同1.8人)をピークに年明け以降は減少傾向を示した。年齢別では1歳が多く、保健所管内別では鈴鹿、津で多かった。【図10】

(11) マイコプラズマ肺炎
 基幹定点当たり年間患者届出数は10.6人で前年比1.42倍に増加した。小児科定点当たり年間患者報告数は28.0人で前年比3.9倍に増加した。ピークは、基幹定点では第32週の定点・週当たり患者届出数0.8人、小児科定点では第51週の同1.6人で当初は例年並みに推移したが6月以降増加がみられた。特に9月に入ってからは2003年以降最も高い水準が現在も継続している。
 近年、治療薬であるマクロライド系抗生剤について耐性が著しく2002年には報告がなかったが、2011年には9割近くがマクロライド耐性を獲得しているために治療効果が見られない遷延化例や重症化例が増えている報告があった。
 基幹定点では1〜14歳が多く、小児科定点では3〜5歳、10-14歳が多かった。保健所管内別では、基幹定点では伊勢、伊賀で多く、小児科定点では四日市市、鈴鹿で多かった。【図11、12】

(12) 性感染症
 男性では性器クラミジア感染症が定点当たり年間患者届出数5.3人(前年比0.88倍)で最も多く、淋菌感染症が同3.9人(前年比1.13倍)と続いた。年齢階級別では性器クラミジア感染症が20〜24歳に多く、淋菌感染症は20〜24歳、25〜29歳、35〜39歳が多かった。一方、尖圭コンジローマは定点当たり年間患者届出数2.1人(前年比1.62倍)と増加し、年齢階級別では25〜29歳、35〜39歳が多かった。
 女性では性器クラミジア感染症が定点当たり年間患者届出数6.5人(前年比0.79倍)で最も多く、性器ヘルペスウイルス感染症が同1.9人(前年比1.00倍)と続いた。性器クラミジア感染症は、年齢階級別では20〜24歳、25〜29歳、15〜19歳の順に多かった。

(13) 薬剤耐性菌感染症
 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症は定点当たり年間患者届出数56.0人(前年比1.16倍)で、保健所管内別では津、松阪で多く、年齢階級別では70歳以上が72.4%を占め、年齢が高くなるにつれて増加する傾向がみられた。ペニシリン耐性肺炎球菌感染症は定点当たり年間患者届出数1.6人(前年比1.08倍)で、保健所管内別では伊賀、尾鷲で多かった。薬剤耐性緑膿菌感染症は同2.1人(前年比2.10倍)で、保健所管内別では尾鷲で多かった。