1 全数把握対象感染症
2015年第1週〜第53週(2014年12月29日〜2016年1月3日)における全ての医療機関から届出が必要な感染症の患者数は、2類感染症の結核が305人、3類感染症の腸管出血性大腸菌感染症が38人(O157:26人、O26:9人、O121:3人)、4類感染症のE型肝炎が4人、A型肝炎が2人、重症熱性血小板減少症候群が2人、チクングニア熱が3人、つつが虫病が3人、デング熱が1人、日本紅斑熱が25人、レジオネラ症が23人、5類感染症のアメーバ赤痢が11人、ウイルス性肝炎が4人(B型:3人、C型:1人)、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症が49人、急性脳炎が2人(病原体:インフルエンザA型、不明が各1人)、クロイツフェルト・ヤコブ病が3人、劇症型溶血性レンサ球菌感染症が9人、後天性免疫不全症候群が6人(全てHIV感染者)、侵襲性インフルエンザ菌感染症が2人、侵襲性髄膜炎菌感染症が1人、侵襲性肺炎球菌感染症が35人、水痘(入院例に限る。)が2人、梅毒が21人、播種性クリプトコックス症が3人、破傷風が1人、風しんが7人、薬剤耐性アシネトバクター感染症が1人であった。【表1〜2】
2 定点把握対象感染症
5類感染症(週届出対象)のインフルエンザ定点(72機関)、小児科定点(45機関)、眼科定点(12機関)及び基幹定点(9機関)からの患者届出数の合計は50,092人で、2014年(55,949人)に比べ10%減少した。疾患別にみると、感染性胃腸炎(定点当たり年間患者届出数292.2人)、インフルエンザ(同242.5人)、手足口病(同90.4人)、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(同87.4人)の順に多く、2014年と比較し増加が目立ったのは、伝染性紅斑、手足口病、マイコプラズマ肺炎(基幹定点、小児科定点)であった。【表3〜4】
5類感染症(月届出対象)のSTD定点(17機関)からの患者届出数は男性130人、女性123人で、2014年(男性144人、女性141人)に比べ男性が14人減少、女性が18人減少した。疾患別にみると、男女とも性器クラミジア感染症(定点当たり年間患者届出数男:3.7人、女:4.8人)が多かった。また、基幹定点からの患者届出数は575人で、このうち97.6%をメチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(定点当たり年間患者届出数62.3人)が占めた。【表5〜6】
2015年に特徴的な発生動向を示した主な感染症は以下のとおりである。
(1) インフルエンザ
定点当たり年間患者届出数は242.5人で、前年比0.66倍に減少した。
2014/15シーズンは、2014年第49週に、流行開始の目安とされる定点・週当たり患者届出数が1人を超え、2015年第4週(定点・週当たり患者届出数41.9人)にピークに達し、第8週に警報解除基準(10人/定点)以下となった。主因ウイルスはAH3亜型であった。
2015/16シーズンは、前シーズンより5週遅い2016年第1週に、定点・週当たり患者届出数が1人を超えて急増し、第6週(定点・週当たり患者届出数37.5人)に警報開始基準(30人/定点)を超えた。病原体検出情報によると、AH1pdm09、AH3亜型、B型が混在しているが、2015年12月下旬以降はAH1pdm09の検出が多くなっている。【表7の(1)、図1】
(2) 咽頭結膜熱
定点当たり年間患者届出数は23.9人で、前年比0.71倍に減少した。年齢別では1〜4歳が多く、保健所管内別では尾鷲、鈴鹿、桑名が多かった。【表7の(2)、図2】
(3) A群溶血性レンサ球菌咽頭炎
定点当たり年間患者届出数は87.40人で、前年比1.42倍に増加した。2〜6月にかけて高い水準で推移し、流行のピークは第20週の定点・週当たり患者届出数3.5人と前年のピーク値(第21週:同2.6人)に比べ高かった。年齢別では5歳を中心に3〜7歳が多く、保健所管内別では鈴鹿が多かった。【表7の(3)、図3】
(4)感染性胃腸炎
定点当たり年間患者届出数は292.2人で、前年比0.86倍に減少した。2015/16シーズンのピークは、2015年第51週の定点・週当たり患者届出数14.2人と前シーズン(第51週:同13.7人)に比べ若干高かった。年齢別では1歳が最も多く、2〜4歳がそれに続いた。保健所管内別では尾鷲、鈴鹿が多かった。【表7の(4)、図4】
(5) 水 痘
定点当たり年間患者届出数は18.7人で前年比0.41倍に大きく減少した。現行の調査開始の1999年以降では最小規模となった前年よりさらに減少し、全ての保健所管内で減少した。年齢別では4歳を中心に3〜6歳が多かった。【表7の(5)、図5】
(6) 手足口病
定点当たり年間患者届出数は90.4人で前年比3.36倍に大幅に増加し、流行のピークは第29週の定点・週当たり患者届出数8.4人であった。年齢別では1歳が最も多く、2〜4歳がそれに続いた。保健所管内別では鈴鹿、尾鷲が多かった。【表7の(6)、図6】
(7) 伝染性紅斑
定点当たり年間患者届出数は20.3人で、前年比5.92倍に大幅に増加した。年齢別では4歳を中心に3〜7歳が多かった。保健所管内別では2〜9月は鈴鹿が多く、10〜12月は伊勢、伊賀が多かった。【表7の(7)、図7】
(8) ヘルパンギーナ
定点当たり年間患者届出数は77.5人で、前年比1.54倍に増加した。流行のピークは第29週の定点・週当たり患者届出数11.8人で、前年のピーク値(第29週:同6.6人)と比較し高かった。年齢別では1〜3歳が多く、保健所管内別では鈴鹿、津が多かった。【表7の(10)、図10】
(9) 流行性耳下腺炎
定点当たり年間患者届出数は5.0人で、前年比0.55倍に減少した。年齢別では4〜6歳が多く、保健所管内別では、前年報告が多かった四日市市、鈴鹿、桑名は減少し、特に増加が認められたのは伊賀であった。【表7の(11)、図11】
(10) RSウイルス感染症
定点当たり年間患者届出数は42.5人で、前年比1.12倍に増加した。流行のピークは第50週の定点・週当たり患者届出数3.6人で、前年のピーク値(第50週:同4.3人)よりも低かった。年齢別では1歳が多く、保健所管内別では津、鈴鹿、桑名で多かった。【表7の(12)、図12】
(11) マイコプラズマ肺炎
基幹定点当たり年間患者届出数は20.4人で前年比2.83倍に増加した。小児科定点当たり年間患者報告数は26.2人で前年比2.18倍に増加した。ピークは、基幹定点では第32週及び第43週の定点・週当たり患者届出数1.1人、小児科定点では第43週及び49週の同1.1人で、当初は例年並みに推移したが7月以降に報告数が多かった。年齢別では基幹定点、小児科定点ともに1〜14歳が多く、保健所管内別では、基幹定点では伊勢、伊賀、鈴鹿で多く、小児科定点では四日市市、伊勢が多かった。【表7の(13)、(20)、図13、20】
(12) 性感染症
男性では性器クラミジア感染症が定点当たり年間患者届出数3.7人(前年比0.93倍)で最も多く、淋菌感染症が同2.4人(前年比0.89倍)と続いた。年齢階級別では性器クラミジア感染症は20〜24歳、25〜29歳が多く、淋菌感染症は25〜29歳が多かった。保健所管内別では両疾患とも桑名が多かった。
女性では性器クラミジア感染症が定点当たり年間患者届出数4.8人(前年比0.81倍)で最も多く、性器ヘルペスウイルス感染症が同1.6人(前年比1.23倍)と続いた。性器クラミジア感染症は、年齢階級別では20〜24歳、15〜19歳、25〜29歳の順に多く、保健所管内別では鈴鹿が多かった。【表7の(23)〜(26)、図23〜26】
(13) 薬剤耐性菌感染症
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症が定点当たり年間患者届出数62.3人(前年比1.02倍)で最も多く、保健所管内別では尾鷲、松阪からの報告数が多かった。年齢階級別では年齢が高くなるにつれて増加する傾向がみられ、70歳以上が76.8%を占めた。ペニシリン耐性肺炎球菌感染症は定点当たり年間患者届出数0.4人(前年比0.50倍)で、保健所管内別では伊勢、伊賀から報告があった。薬剤耐性緑膿菌感染症は同1.1人(前年比0.40倍)で、保健所管内別では最も尾鷲が多かった。【表7の(27)〜(29)、図27〜29】
(14) その他の感染症
・突発性発しん【表7の(8)、図8】
・百日咳【表7の(9)、図9】
・クラミジア肺炎(小児科 三重県独自)【表7の(14)、図14】
・クラミジア肺炎(基幹)【表7の(21)、図21】
・急性出血性結膜炎【表7の(15)、図15】
・流行性角結膜炎【表7の(16)、図16】
・感染性胃腸炎(ロタウイルス)【表7の(17)、図17】
・細菌性髄膜炎【表7の(18)、図18】
・無菌性髄膜炎【表7の(19)、図19】
・インフルエンザ(入院)【表7の(22)、図22】
3 病原体検出情報
2015年1月1日から12月31日までに県内の病原体検査定点医療機関等から検査依頼のあった患者数は、表1〜3に示すとおり783名であった。疾患別の主な内訳は、感染性胃腸炎225名、手足口病68名、インフルエンザ61名、リケッチア感染症53名、ヘルパンギーナ30名、咽頭結膜熱14名の順であった。また、その他として、気管支炎等が211名であった。
これらの検体を検査したところ、表4〜5に示すとおり502名(64.1%)から病原体が分離・検出された。検出された主な病原体は下記のとおりであった。
1.感染性胃腸炎
患者225名中114名からウイルス由来遺伝子等が検出された。検出されたウイルスはノロウイルスG2型が60名で最も多く、次いでサポウイルスG1型が11名、アデノウイルス40/41が8名、ノロウイルスG1型が7名等であった。
2.手足口病
患者68名中46名からウイルス由来遺伝子等が検出された。検出されたウイルスは、コクサッキーA群6型が16名、ライノウイルスが10名、コクサッキーウイルスA群16型が7名、コクサッキーウイルス6型とライノウイルスが同時に検出されたのが2名等であった。
3.インフルエンザ
患者61名中58名からウイルス由来遺伝子等が検出された。検出されたウイルスは、AH3型が38名、B型が17名、AH1pdm09が3名であった。
4.リケッチア感染症
患者53名中25名からリケッチア由来遺伝子もしくは有意な抗体等が検出された。内訳は日本紅班熱リケッチア(Rickettsia japonica)が24名から、ツツガムシリケッチア(Orientia tsutsugamushi
Kawasaki)が1名から検出された。
5.ヘルパンギーナ
患者30名中20名からウイルスが検出された。検出されたウイルスはコクサッキーウイルスA群10型が8名から、サイトメガロウイルスが3名から、コクサッキーウイルスA群2型およびエコーウイルス18型がそれぞれ2名から、また、コクサッキーウイルスA群10型およびサイトメガロウイルスが同時に検出されたのが2名等であった。
6.不明発疹症
患者20名中14名からウイルス由来遺伝子等が検出された。検出されたウイルスは、コクサッキーウイルスA群9型が3名、コクサッキーウイルスA群6型、EBウイルス、ライノウイルスがそれぞれ2名から検出された。
7.咽頭結膜熱
患者14名中7名からウイルス由来遺伝子等が検出された。検出されたウイルスはアデノウイルス3型、アデノウイルス54型などであった。
8.その他
気管支炎等の患者検体からライノウイルス、パラインフルエンザ1型、2型、3型、RSウイルス、コロナウイルス、ヒューマンメタニューモウイルス、ヒューマンボカウイルス等が検出された。
病原体検出情報の詳細はこちらから
4 三重県におけるインフルエンザの流行(2015〜2016シーズン)
1.インフルエンザウイルス検出状況
2015年9月(第36週)から2016年4月(第16週)までに三重県感染症発生動向調査事業における県内医療機関から検査依頼のあった患者臨床検体(鼻汁および咽頭拭い液)85件についてインフルエンザウイルス検査を行った。A型インフルエンザウイルスの検出状況は、AH1pdm09インフルエンザウイルス(AH1pdm09)38件、AH3亜型インフルエンザウイルス(AH3亜型)15件が検出された。B型インフルエンザウイルス(B型)は29件検出され、系統内訳は山形系統26件、ビクトリア系統3件、AH1pdm09&B型(ビクトリア系統)が1件で検出された(2016年4月26日集計)。
検体採取週別の検出状況を表1に示した。今シーズン最初のインフルエンザウイルスの検出は2015年9月(第37週)に渡航歴(上海)を有する患者よりAH1pdm09が検出された。
2015年10〜12月はAH3亜型が検出される傾向が認められ、10月(第43週)に1件検出され、以降は、2016年3月(第9週)までに15件検出されたが、流行の主流は12月後半から検出が増加したAH1pdm09で3月末までに38件検出された。
B型は2015年12月(第52週)に2件のB型(山形系統)が初検出され、翌、第53週にはB型(ビクトリア系統)が2件検出された。その後、県内では2016年4月(第16週)までにB型(山形系統)が26件検出され主流となっている。
検体採取集別検出状況(表1)

2.オセルタミビル耐性AH1pdm09ウイルス 検出状況(2015/16シーズン)(表2)

3.三重県で分離されたインフルエンザウイルス株の抗原性(2015/16シーズン)
A型インフルエンザウイルス
・AH1pdm09 : ワクチン類似株
・AH3亜型 : 変異株
B型インフルエンザウイルス
・山形系統 : ワクチン類似株
・ビクトリア系統:ワクチン類似株
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