咽頭結膜熱

咽頭結膜熱は、例年5月中下旬に患者数が増加し始め、7月下旬から8月上旬をピークに流行が見られる夏期の疾患で、プールを介して流行することが多いことから、プール熱とも呼ばれています。感染経路は通常、飛沫感染ですが、プールでは眼の結膜からの感染も考えられています。
 三重県では、2020年以降は比較的小規模な流行でしたが、2023年は9月以降急増し、警報レベルの目安となる定点当たり週間報告数3人を超え、過去最大規模で推移しました。その後、2024年現在は例年並みの水準に減少しています。
三重県の2024年第39週 9月23日(月)~9月29日(日)の定点当たり患者数は0.31人となっています。
 咽頭結膜熱の通常の感染経路は飛沫感染又は手指を介した接触感染です。以下のことに気を付け、感染予防の徹底に努めましょう。
1)流行時には、流水と石けんによる手洗い、うがいを励行しましょう。
2)感染者との密接な接触は避けましょう。
3)タオルなどは別のものを使いましょう。
4)プールからあがった時は、シャワーを浴び、目をしっかり洗い、うがいをしましょう。
(厚労省通知:遊泳用プールの衛生のページ)
<保健所管内別定点あたり届出数>
 警報レベルを超えた場合、大きな流行が発生または継続していることが疑われる、注意報レベルを超えた場合は、大きな流行が発生する可能性がある又は流行が終息していな可能性が疑われます。これらはあくまで流行状況の指標であり、都道府県として発令される「警報」とは異なります。
報告数/定点
報告数の過去5年間の報告数との比較
 本年の定点あたり報告数が、赤色折れ線を超えているときは、過去5年間と比較してかなり報告数が多いことを示しています。(過去5年間の平均:当該週とその前後の週の計15週の平均)
咽頭結膜熱
  桑名 四日市市 鈴鹿 松阪 伊勢 伊賀 尾鷲 熊野
2024-09-24 0.43 1.14
2024-09-25 1.08 1.17
2024-09-26 0.86 0.57
2024-09-27 0.56 1.08
2024-09-30
2024-10-01 0.58 0.64
2024-10-02 0.43 0.65 1.33
2024-10-03 0.55 0.83 0.54 1.20
2024-10-04 0.72 0.45 0.66 0.72 0.88
2024-10-07 1.30
<学校等欠席者情報システムとは>
 感染症で欠席する児童・生徒等の発生状況をリアルタイムに把握して、学校(保育園)、教育委員会(保育課)、学校医、保健所等と情報を共有することができるシステムです。
 現在、公益財団法人 日本学校保健会により運営されております。
全国の咽頭結膜熱定点当たり患者届出数(最新情報)
国立感染症研究所のホームページより
咽頭結膜熱(Pharyngoconjunctival fever:PCF)って、どんな病気?
1 咽頭結膜熱とは…?
咽頭結膜熱は、アデノウイルスによる感染症で、プールを介して流行することがあるため、プール熱とも呼ばれます。発熱をもって発症し、頭痛、食欲不振、全身倦怠感とともに、咽頭炎に起因する咽頭痛、結膜炎にともなう結膜充血、眼痛、羞明、流涙、眼脂を訴え、3~5日間程度持続します。眼症状は一般的に片方から始まりますが、その後他方にも出現します。また結膜の炎症は下眼瞼結膜に強く、上眼瞼結膜には弱いとされています。眼に永続的な障害を残すことはありません。また、頚部特に後頚部のリンパ節の腫脹と圧痛を認めることがあります。潜伏期は5~7日とされています。
2 流行疫学
本疾患の原因であるアデノウイルス自体は特に季節特異性はなく、年間を通じて分離されます。しかしながら、咽頭結膜熱という疾病は、通常夏期に大きな流行をみ、6月頃から徐々に増加しはじめ、7~8月にピークとなります。通常学童年齢の罹患が主であるとされていますが、感染症発生動向調査での罹患年齢は5歳以下で80%以上を占めています。感染経路は通常飛沫感染ですが、プールでは結膜や経口的な感染も考えられます。
咽頭結膜熱をおこすのは、多くはアデノウイルス3型、あるいは4型、7型でありますが、逆にこれらの血清型のアデノウイルスが感染してもかならずしも咽頭結膜熱の症状を来すとは限りません。乳幼児の急性気道感染症の10%前後がアデノウイルス感染症といわれ、咽頭炎、扁桃炎、肺炎などの呼吸器疾患、本稿で述べている咽頭結膜熱、流行性角結膜炎などの眼疾患、胃腸炎などの消化器疾患、出血性膀胱炎などの泌尿器疾患から、肝炎、膵炎から脳炎にいたるまで、多彩な臨床症状を引き起こします。アデノウイルスは小児のウイルス感染症としては一般的によく見られるウイルスです。
3 最近の動向
近年のアデノウイルスの傾向として、以前には少なかった7型が増加してきたことがあげられます。わが国ではアデノウイルス7型の分離報告は1994年までは極く少数の散発例のみでありましたが、1995年以降急激に増加しています。注意すべき点は心肺機能低下、免疫機能低下等の基礎疾患のある人、乳幼児、老人では重篤な症状となることがあり、呼吸障害が進行したり、さらに細菌の二次感染も併発しやすいということです。最近感染症関連の学会などでも各地の医療機関よりアデノウイルス7型感染の重症例の報告が相次いでおり、引き続きこのウイルスの動向には注意を払う必要があります。
4 予防と発生時の対策
特異的治療法はないため、対症療法が中心となります。眼症状が強い場合には眼科的治療が必要になることもあります。対策としては、感染者との濃密な接触を避けること、流行時にうがい、手指の消毒を励行することでさらなる流行を抑えることです。プールを介しての流行に対しては、水泳前後のシャワーなど一般的な予防方法の励行が大切ですが、プールを一時的に閉鎖する必要のあることもあります。7型感染症の場合には心肺機能に基礎疾患をもつ小児では重症化の危険性が高く、院内感染対策上重要です。消毒法として、手指に対しては流水と石鹸による手洗いおよび90%エタノ-ル、器具に対しては煮沸、次亜塩素酸ソーダを用います。逆性石鹸、イソプロパノールには抵抗性なので注意を要する必要があります。
引用(参考)文献